コミュニティシネマ憲章

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コミュニティシネマ憲章 – 地域における豊かな映画環境の創造のために –
2003年9月発表

2001年12月7日に公布された文化芸術振興基本法において、映画はメディア芸術のひとつとして位置付けられ、国民文化の一翼を担うものとして、その振興がなされるべきものであることが明言されました。
映画映像文化の豊かな未来を築くため、映画上映環境の地域的な格差と上映作品の画一化を避けるために、歴史的にも、地理的にも広い範囲から選ばれた作品をオリジナルな状態で鑑賞する機会を増やしていく必要があります。そうすることによって、柔軟な鑑賞能力をもった幅広い観客層が形成され、映画映像史的なパースペクティヴをもった新たな作家の登場を促し、映画映像表現の不断な更新が行われることにもなるでしょう。
私たちは、官民が一体となった新しい上映活動、「コミュニティシネマ」活動を実施することによって「公共上映」を推進し、地域における豊かな映画環境の実現を目指していくことを宣言します。

Ⅰ. コミュニティシネマの使命

上映環境の地域格差の是正と上映作品の多様性の確保
コミュニティシネマは、上映環境の地域格差を是正し、映画や映像を観る人が、どの地域に生活していようと、多様な映画や映像に接する機会を提供していきます。
興行上の利益を優先するのではなく、上映作品の芸術的・文化的価値を重視した、歴史性、批評性、実験性に富んだ企画によって、公共的な価値を優先した番組編成を行います。地域によっては、収益性の面から通常の商業映画館などでは公開されにくい映画・映像作品およびプログラム、たとえば、東京や大阪など大都市の都心部の映画館以外では上映される機会のないインディーズ系の日本映画、アメリカ以外の外国映画、インディーズ系のアメリカ映画、および邦洋の古典的な作品、短篇映画、学生映画、実験映像などを積極的に取り上げていきます。

多様なコミュニティに対する多様な上映機会の提供
コミュニティシネマは、地域における多様なコミュニティがその関心や興味に応じて映画や映像に接することができる、多様な上映機会を提供します。
世代や年齢、性の違い、文化の違いなどに応じた番組編成を心がけます。
映画祭の開催や、監督・テーマなどに即した企画上映、児童や青少年を対象とした上映などの実施によって、多様なコミュニティの関心に応じると同時に、新たなコミュニティの形成にも貢献します。さらに、こうした多様なコミュニティが映画上映の場にアクセスしやすいように、バリアフリー上映などの環境づくりも整えていきます。

メディアリテラシーの向上など教育的使命を実現すること
コミュニティシネマは、映画・映像に関連するワークショップなどを開催することによって、メディアリテラシーの向上という教育的な使命を実現します。
監督や研究者らによるトークショーやシンポジウム等を開催し、観客に映画や映像への深い理解と、広く社会との関わりに目を向ける機会を提供します。チラシやパンフレット、カタログなどの広報・出版活動を通して、上映される作品や監督などについての客観的な情報を提供していきます。
小学生や中高生に対しては、単に映画や映像を観る機会を提供するだけでなく、自ら作品をつくる体験を通して映画や映像に対する興味や関心を喚起するため、ワークショップなどの体験学習を上映と連動させながら実施していきます。教育的プログラムの実施にあたっては、地域の小中学校、高校、大学等と連携することも考えていきます。

地域に対する貢献
コミュニティシネマは、映画や映像製作を含めた地域における映画映像環境全般を活性化させる役割を担います。
地域で映画や映像を製作している人たちの活動に目を向け、こうした人たちの作品を積極的に上映すること、すでに地域に根づいた活動を行っている映画祭運営組織や自主上映団体、美術館、博物館、フィルム・コミッションなどとの連携をはかりながら、上映活動を実施します。また、地域において映画や映像をより広く普及していくために、ミニシアターなど地域に存在する既存の商業映画館との協力体制の可能性を探ります。
以上のような事業に積極的に取り組み、コミュニティシネマの活動が地域の経済活動を活性化させ、雇用の創出などにつながっていくことも目指します。

Ⅱ. 「コミュニティシネマ」の在り方

「コミュニティシネマ」とは、必ずしも“映画館を運営すること”を意味しません。公共上映を行う主体として、地域に根ざした上映活動やそれに関連する事業を継続的に行っていく非営利団体です。それゆえ、「コミュニティシネマ」は、これまで公共上映的な活動を続けてきた映画祭運営組織や自主上映団体、美術館、博物館、図書館、学校などと連携をはかりながら活動を発展させていきます。また、公共ホールのような非営利の会場だけでなく、シネマコンプレックスやミニシアターのような商業映画館を借り受け、一時的に公共上映の場として利用することも考えられます。
将来的には地域のメディアセンターとしての活動ができる「場」をもつことを目指します。

「コミュニティシネマ」の形態
● 市民自発型
上映会場の確保から上映プログラムの立案、運営まですべて市民が行い、自治体等の支援を受けながら公共上映を行うもの。
● 映画祭+行政型
現在、映画祭を運営している組織がその活動を恒常的なものとすることを目指し、行政との協力によって新たに場を作り、公共上映を行うもの。
● 中心街再生型
地域商店街や映画館などが主体となって上映組織をつくり、空洞化した中心街再生の起爆剤として公共上映を行うもの。
● 行政主導型
行政が主体となり、フィルム・コミッションなどの活動を拡大・発展させるなかで公共上映を行うもの。
この他にも、既存の映画映像専門施設(映画映像ライブラリーや美術館等)における上映活動を「コミュニティシネマ」として捉えなおす「専門施設型」や、自主上映団体が個々の活動とは別に連合体を組織し、公共ホールなどの施設を拠点に公共上映を行うもの、大都市においてミニシアターとの棲み分けを前提としながら、ミニシアターと公共ホールなどの場を横断的に利用しながら公共上映を行うものなど、多様な形態が考えられます。

「コミュニティシネマ」の法的地位
「コミュニティシネマ」は、そこで生み出された利益を、株主や社員への配当などに供することのない、特定非営利活動法人(NPO)ないしは公益法人とします。

「コミュニティシネマ」の財政
「コミュニティシネマ」がさまざまなコミュニティに対して有している重要な公益性に鑑み、公的な支援を求めます。支援元として考えられるのは、国、政府管轄の公益法人や独立行政法人、および地方公共団体です。そのためには、国および地方公共団体による、「コミュニティシネマ」への公的支援の枠組み作りが前提となります。
「コミュニティシネマ」では、公的支援に加えて、入場料などの収入、会員制組織の構築などによって得られる会費などに加え、企業・個人からの寄付や財団からの助成金など、独自のファンドレイジングによって、予算編成を行っていきます。

Ⅲ. 「コミュニティシネマ」とインフラに対する公的支援の重要性

「コミュニティシネマ」への公的支援は地方自治体が中心になって
上記のとおり、「コミュニティシネマ」の存在形態にはいくつかの類型が生まれてくると予想できますが、いずれにせよ、「コミュニティシネマ」は、地域に密着した活動を行うことによって、地域住民に対する映像芸術、映画文化の普及と振興、映画映像教育の実践、ひいては地域における映画映像環境全般の活性化を担うことになるので、「コミュニティシネマ」に対する公的な支援制度は、市町村などの地方自治体が主体となって施策を立案し、実行していくことを期待します。また、上映組織に対する公的支援の枠組みは、これまですでに公共的な上映活動に従事してきた組織が、充分に行い得なかったことや不可能だったこと、また新たに設立される上映組織が活動を行いやすくするためのものでなければなりません。「コミュニティシネマ」の使命に鑑み、以下に例示されるような領域において公的支援が活用されることを求めます。

1. 恒常的な上映を保証するために――
・上映会場の確保、及び既存の上映施設の有効的利用
・上映設備や劇場など施設の修繕や改善
・番組編成者や映写技師などの人材確保

2. 多様な映画・映像作品の上映を行うために――
・収益性の面でリスクの高い映画・映像作品の上映や企画に対する損失補償
・非劇場上映権をクリアしたフィルム、ビデオ、DVDなどのライブラリー構築

3. 多様なコミュニティによる均等なアクセスを保証するために――
・コミュニティを対象としたマーケット開発のための広報・宣伝・アウトリーチ活動
・劇場および施設全体のバリアフリー化

4. 教育的な使命を実現するために――
・各種講座やワークショップなどの恒常的な開催