映画/批評月間 フランス映画の現在vol.02 オリヴィエ・ペール(アルテ・フランス・シネマ)によるセレクション

アンスティチュ・フランセが、フランスの映画媒体、批評家、専門家、プログラマーと協力し、最新のフランス映画 を選りすぐって紹介する特集「映画批評月間~フランス映画の現在をめぐって~」。Vol.02は、フランスのみならず、世界の映画作家たちの製作を積極的に支援しているアルテ・フランス・シネマのディレクター、オリヴィエ・ペールによるセレクションです。

アルテが共同製作した傑作の数々に加え、 “ふたりの「風変わりな(エキセントリック)映画作家”、セルジュ・ボゾン(『マダム・ハイド』)と、多くの映画人に敬愛され、惜しまれながら2019年8月に他界したジャン=ピエール・モッキー(『今晩おひま?』)の特集も併せて、アンスティチュ・フランセ東京で上映された作品の中から厳選した11本を全国に巡回します。

巡回作品

2019年ベストアルテ共同製作作品

  • 『アリスと市長』監督:ニコラ・パリジェ(2019年/105分) 第72回カンヌ国際映画祭監督週間出品
  • 『君は愛にふさわしい』監督:アフシア・エルジ(2019年/107分) 第72回カンヌ国際映画祭批評家週間で上映
  • 『リベルテ』監督:アルベルト・セラ(2019年/138分) 2019年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門受賞作品
  • 『シノニムズ』監督:ナダヴ・ラビド(2018年/123分) 69回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞
  • 『見えない太陽』監督:アンドレ・テシネ(2019年/102分)
  • 『カブールのツバメ』監督・脚本:ザブー・ブライトマン&エレア・ゴべ・メヴェレック(2019年/82分) 2019年カンヌ国際映画祭ある視点部門コンペティション出品

セルジュ・ボゾン特集

  • 『マダム・ハイド』(2018年/96分) ロカルノ国際映画祭最優秀女優賞受賞(イザベル・ユペール)
  • 『ティップ・トップ ふたりは最高』(2014年/107分) 2013年カンヌ国際映画祭監督週間出品

ジャン=ピエール・モッキー特集

  • 『今晩おひま?』(1959年/78分)
  • 『ソロ』(1970年/ 89分)
  • 『赤いトキ』(1975年/87分)

2019年ベストアルテ共同製作作品:

© 2019 Bac Films Distribution All rights reserved

『アリスと市長』

Alice et le Maire
フランス/2019年/105分/カラー/デジタル
監督:ニコラ・パリジェ
出演:ファブリス・ルキーニ、アナイス・ドゥモスティエ、ノラ・ハムザウほか

リヨンの市長ポール・テラノーは、アイデアが一切浮かばなくなり、若き哲学者アリスに助けを求めることに。
『木と市長とメディアテーク』では高校教師を揚々と演じたルキーニが26年後、まさにローメル的コメディで、燻し銀の魅力で老いとともに人生を見つめ直す市長を演じる。また、大きな瞳と溌剌とした魅力で、観客の心を捉える人気の若手女優、ドゥムースティエ演じる哲学者との真摯で、遊戯に満ち、心打たれる対話によってお互いが「アイデア」を、そして「人生」を取り戻していく。第72回カンヌ国際映画祭監督週間出品。

© 2008 REZO FILMS

『君は愛にふさわしい』

Tu mérite d’un amour
フランス/2019年/107分/カラー/デジタル
監督:アフシア・エルジ
出演:アフシア・エルジ、ジェレミ・ラウルト、ジャニス・ブジアニほか

何よりも大切な恋人レミの裏切りを知り、リラは苦しむ。単身ボリビアに旅立ったレミから、二人の関係はまだ終わっていないと告げられる。その言葉によってさらに苦しむリラは、友人たちとの会話、新たな出会いの中でもがき、愛の行方を求めて彷徨う…。寄る辺なく生きる現代の若者たちの恋愛をアブデラティフ・ケシシュやアラン・ギロディらの作品に出演している女優、エルジが初監督、主演。第72回カンヌ国際映画祭批評家週間で上映され、「宝石のように美しいラブストーリー」と絶賛された。タイトルはフリーダ・カーロの詩の言葉から。

『リベルテ』

Liberté
フランス=ポルトガル=スペイン=ドイツ/2019年/138分/カラー/デジタル/R16+
監督:アルベルト・セラ
出演:ヘルムート・バーガー、マルク・スジーニ、イリアーナ・ザベート、リュイス・セラーほか

ジャン=ピエール・レオ主演の『ルイ14世の死』が日本でも公開された鬼才アルベルト・セラが今度はフランス革命前夜の18世紀の退廃貴族たちの性、欲望のありか、サド的世界に迫る。ルイ16世のピューリタン的厳格な宮廷から追放された自由主義者たち(ルビ:リベルタン)は、伝説的ドイツ人公爵ワルシャンの支援を求めて国境を越える。2019年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門受賞作品。

「私にとって撮影とは上演(パフォーマンス)であり、一度限りのものだ。演じられている中で生まれるもの、感情を、それぞれが自律的な3台のキャメラで撮影し、それらは再び生み出すことが不可能であり、とくにセックスが題材であればなおさらそうである。」
アルベルト・セラ
© Guy Ferrandis / SBS Productions

『シノニムズ』

Synonymes
フランス=イスラエル=ドイツ/2018年/123分/カラー/デジタル/R15+
監督:ナダヴ・ラビド
出演:トム・メルシエール、カンタン・ドルメール、ルイーズ・シュヴィヨット

「『シノニムズ』は、パリの空っぽのアパルトメントで凍えそうになった裸体と共に、象徴的な死とある誕生によって幕を開ける。物語は、祖国イスラエルからパリへと亡命し、文化、言語、国、すべてを白紙に戻し、未知の場所でゼロから生きることを選んだラビド監督自身の人生から着想を得ており、主役のヨアブは監督の分身であるだろう。本作はラビドがこれまで続けてきた試みのひとつの到達点でもある。それは通常なら詩的なものからほど遠いであろう憎しみや嫌悪の言葉や映像を結びつけ、それらの衝突の中から、そして視線の中から美を導き出すという試みである」。オリヴィエ・ペール
69回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞。

© Curiosa Films / Bellini Films / Arte France Cinema

『見えない太陽』

L’Adieu à la nuit
フランス=ドイツ/2019年/102分/カラー/デジタル
監督:アンドレ・テシネ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ケイシー・モッテ・クライン、ウーヤラ・アマムラ ほか

2015年春。地方で牧場や農場を営むミュリエルは、久しぶりに帰ってきた孫息子アレックスとの再会に心躍らせる。しかしアレックスがイスラム教に入信し、しかもその教団がシリアのイスラム教テロリストたちとつながりがあり、アレックス自身もシリアに向かおうとしていることを知ったミュリエルはなんとか彼を引きとめようとするのだが……。ドヌーヴがもっとも信頼を置くと名言している名匠アンドレ・テシネとの8本目の本作で、つねに目の前の対象に開かれ、その度に繊細な演技をみせてきた大女優の魅力が最大限に引き出されている。

© memento films

『カブールのツバメ』

Les Hirondelles de Kaboul
フランス=ルクセンブルク=スイス/2019年/82分/カラー
監督・脚本:ザブー・ブライトマン & エレア・ゴべ・メヴェレック
声の出演:ジタ・アンロ、スワン・アルロー、シモン・アブカリアン、ヒアム・アッバス ほか

1998年夏、アフガニスタンのカブールはタリバン勢力の支配下に。ズナイラとモーセンのカップルは、暴力と悲惨な現実の中でも希望を持ち続けていたが、ある行動が災いし…。大文字の歴史の中で翻弄される夫婦や恋人たちの日常のささやかなやり取り、感情が繊細に描かれ、心を打つ傑作アニメーション。スワン・アルローら、フランスで現在人気上昇中の俳優たちが声で出演している。
2019年カンヌ国際映画祭ある視点部門コンペティション出品

Rétrospective Serge Bozon セルジュ・ボゾン特集

セルジュ・ボゾン

1972年、フランスのエクス=アン=プロヴァンス生まれ。1988年に初めての長編作『友情』を発表。次作のミュージカルコメディ『モッズ』(2003)でベルフォール国際映画祭にてレオ・シェア賞を受賞、その他30以上の国際映画祭にノミネートされる。第一次世界大戦を描いたシルヴィー・テステュー主演の『フランス』(2007)でジャン・ヴィゴ賞を受賞。その後、イザベル・ユペール、サンドリン・キーベルラン、フランソワ・ダミアン出演によるコメディ『ティップ・トップ ふたりは最高』(2013)を発表、カンヌ国際映画祭の監督週間にて上映。さらに、イザベル・ユペール主演の最新作『マダム・ハイド』は、第70回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門に選出、ユペールは本作で主演女優賞受賞。映画批評家として「カイエ・デュ・シネマ」、「So Film」などに寄稿。俳優としても『倦怠』(セドリック・カーン)、『青の寝室』(マチュー・アマルリック)などに出演している。

© DR

『ティップ・トップ ふたりは最高』

Tip Top
フランス=ルクセンブルク/2014年/107分/カラー/デジタル
出演:イザベル・ユペール、サンドリン・キーベルラン、フランソワ・ダミアン、キャロル・ロシェほか

フランス北部でアルジェリア系の情報屋が殺された。情報屋は、地域のドラッグの密売に関わっていた。警察署内部を探るため、ふたりの女性監察官、エスターとサリが派遣された。ひとりは殴りこみをかけ、もうひとりは覗き見る…そう、ふたりは最高のコンビ!
2013年カンヌ国際映画祭監督週間出品

「ボゾンはかつてゴダールが取った方法を応用してみせる。犯罪映画を口実に、まったく別のものを語ること。では本作では何が語られているのか。おそらく傑出した前作のタイトルの中にその答はあるだろう、つまり『フランス』である」。
オリヴィエ・ペール
© Les Films Pelleas

『マダム・ハイド』

Madame Hyde
フランス/2018年/96分/カラー/デジタル
出演:イザベル・ユペール、ロマン・デュリス、ジョゼ・ガルシア

パリ郊外の高校に勤める内気な物理学の女性教師ジキルは生徒たちから見下されている。ある日、彼女は、実験中に失神し、神秘的で危険な力を感じるようになる。スティーヴンソンの代表作『ジキル博士とハイド氏』を19世紀後半のブルジョワ社会ではなくパリ郊外、現在を舞台に、男性ではなく女性を主人公に自由に脚色されたボゾンの最新作。
ロカルノ国際映画祭最優秀女優賞受賞(イザベル・ユペール)

「トリュフォーが『野生の少年』で試みたように、学ぶということを映画でどう描くか、教育の重要性、難しさを見せたかった。冒頭では主人公はまだにそこに至っておらず、ふつうの方法では変えられない状況にいる。そこにスティーヴンソンが介入してくるわけだ。」
セルジュ・ボゾン

Rétrospective Jean-Pierre Mocky ジャン=ピエール・モッキー特集

ジャン=ピエール・モッキー

1933年ニース生まれ。長編だけでも67本の作品を監督し、フランス映画の中でもどこにも分類できない、ユニークな映画作家。法律の勉強を終えた後、フランス国立入学後すぐ、舞台、映画界の両方でその美貌と才能で一気に若手俳優として頭角を現す。ルキノ・ヴィスコンティ監督作『夏の嵐』で助監督を務め、その後、脚本を書き、自ら監督を希望した『壁にぶつかる頭』(1958)は結局、ジョルジュ・フランジュが監督し、主演することに。1959年にようやく処女長編作『今晩おひま?』を発表、商業的、批評的に成功を収める。「ヌーヴェルヴァーグの従弟」のような作品と評されるが、風刺的でメランコリック、そして類をみない反体制的な作風でほかとは一線を画し、メインストリームから外れた場所で、自由に映画を撮り続ける。ラブコメディから風刺的コメディ、あるいは犯罪映画や軍隊もの、政治的作品から幻想的な作品まで、ひとつのジャンルにおさまることなく、慣例化された制度、価値には反旗を翻し、アナーキーな世界観や荒々しいまでのユーモアを一本ごとに刻印してきた。そうしたモッキーの魅力は多くのスター俳優たち、フェルナンデル、ミシェル・シモン、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャンヌ・モローを引きつけ、彼の作品に出演し続けた。名優ブールヴィル、ミシェル・セローとは特に多くの作品でタブを組んでいる。2019年8月8日死去、享年86歳。

*すべて、デジタルリマスター版

© M. Films

『今晩おひま?』

Les Dragueurs
フランス/1959年/78分/モノクロ/デジタル
出演:ジャック・シャリエ、シャルル・アズナブール、ダニー・ロバン、アヌーク・エーメほか

土曜日の夕暮、フレディとジョゼフは、セーヌ河岸で偶然出会い、女の子を「ひっかけに」街に繰り出す。二十歳の装飾家でプレイボーイのフレディは「理想の女性」を探し求めている。かたやまじめな銀行員ジョゼフは妻を見つけ、家庭を持つことを望んでいる。アンバリッド、サン=ジェルマン=デ=プレ、シャンゼリゼ通り、モンマルトル、彼らは、様々な女性たちと出会い、彼女たちの人生を垣間見ることに。29歳のジャン・ピエール・モッキーが自伝的な要素を交え、ささやかなテーマながら大胆な作風、ほとんどロケで撮り上げた処女作。日本で公開された唯一のモッキー監督作品でもある。

© M. Films

『ソロ』

Solo
フランス/1970年/ 89分/カラー/デジタル
出演:ジャン=ピエール・モッキー、アンヌ・ドゥルーズ、デニス・ル・ギヨ ほか

魅惑のヴァイオリン奏者のヴァンサン・キャブラルは宝石泥棒でもある。彼の弟のヴィルジルはアナーキストのグループに属し、殺人にも手を染めていた。ヴァンサンはこれ以上の殺戮が繰り返されないように、警察より先回りしてヴィルジルを追いかけるのだが…。

「70年代、モッキーはB級犯罪映画を自ら主演し、連続して撮っている。アクションに次ぐアクション、そして演出のアイディア満載の本作は、68年五月革命直後についてのモッキー自身の考察から出発している。シニックなアンチヒーローを演じるモッキー、ジョルジュ・ムスタキのテーマ曲によって愁いを帯びたロマンチシスムに包まれたフィルムノワール。」
オリヴィエ・ペール

『赤いトキ』

L'Ibis rouge
フランス/1975年/87分/カラー/デジタル
出演:ミシェル・セロー、ミシェル・シモン、エヴリーヌ・バイル ほか

孤独な会社員ジェレミーは赤いマフラーで次から次に女性たちを絞め殺してきた。同じ界隈に住む賭博好きのレーモンは、借金を返済するために愛する妻のエヴリーヌに宝石を売るよう頼む。そんなふたりが出会い、ある計画が立てられることに…。

「フレドリック・ブラウンの推理小説『3、1、2とノックせよ』から着想を得た本作は、ファンタスティックかつポエティックにフランス社会を描いたモッキーの代表作のひとつ。本作が遺作となった偉大な俳優ミシェル・シモンへのオマージュでもあり、サン=マルタン運河沿いで多く撮られていることもあり、『素晴らしき放浪者』や『アタラント号』の記憶が蘇ってくる。」
オリヴィエ・ペール

愛する作品と共に旅を続けること
「第2回映画批評月間 ~フランス映画の現在をめぐって~」プログラムに寄せて

オリヴィエ・ペール

映画作家を発見し、その作家が一本、また一本と撮り続けていくために支援する、そしてまた他の作家たちへの賞賛を示し、彼らが作品を創り出す手助けをする。2012年にアルテ・フランス・シネマのディレクターに就任して以来、それまでの12年間、カンヌ国際映画祭監督週間、そしてロカルノ国際映画祭でディレクターとして行ってきたそうした活動を、今日まで続けてきました。世界における主要な映画作家たちの作品の共同製作に参加するだけでは十分でなく、そうした作品が観客たちと出会うその重要な瞬間に寄り添い、映画作家たちとは実り豊かな対話を作り出していくことが重要です。
アンスティチュ・フランセ 日本の提案により、今回初めて日本の映画ファンたちに向けて、アルテが支援している映画作品のセレクションを紹介する機会を得ました。本プログラムでご紹介するのはとくに私たちが大切に思っている作品たちであり、自由で野心的な映画を支援してきたアルテの精神を体現している作品ばかりです。
カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭の様々な部門に出品されるヨーロッパ、そして世界中の映画作品の中で、アルテ・フランス・シネマは、現代映画作家たちの映画へ関わりを強く示してきました。ドキュメンタリーからアニメーション、映画の様々なジャンルの再読解を試みる作品から、社会への視線を基軸にした作品、現代に根を下ろしたフィクションから、より奔放なる想像力の探求まで、あるいはそのすべてを包括した作品。そうしたインスピレーションに溢れた映画作家たちに耳を傾け、斬新な作品に寄り添い続けたいという私たちの意思は尽きることがありません。映画の創造に乗り出す新顔の監督たち、一作目、二作目の作品に重要な場所を与えてきました。
こうした若い世代の映画作家たちの勢いはまた女性監督たちについてもあてはまるでしょう。新人の女性監督たちの中で、とくにマッティ・ディオップ(『アトランティックス』、カンヌ国際映画祭グランプリ)、アフシア・エルジ(『君は愛にふさわしい』)、ザブー・ブライトマン&エレア・ゴべ・メヴェレック(『カブールのツバメ』)が2019年に素晴らしい作品を発表し、観客にも批評家たちにも温かく迎えられました。多くの女性監督、しかもそのほとんどが新人監督による作品を支援できたこと大変喜ばしく思っています。

 

世界は変化し、そこに向けられる視線も変化している、映画の刺激的冒険はそのことを私たちに伝えてくれます。そうした「新たな視線」こそ歓迎し、応援すべきでしょう。アルテは、未来の巨匠となるであろう若い才能の出現を注意深く見据えてきました。私たちの主な目標はまさにそうした才能溢れる作家たちの重要な瞬間を発見し、支援することです。
そうした作家の一人であり、早い時期からその才能が認められたナダヴ・ラピドは、長編三作目にあたる『シノニムズ』で見事ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞しました。アルベルト・セラ(『リベルテ』)、ニコラ・パリゼール(『アリスと市長』)、セルジュ・ボゾン(『マダム・ハイド』)、カンタン・デュピュー(『ディアスキン鹿皮の殺人鬼』)、私たちが共同製作に関わったこうした作家たちはフランス映画に刺激的な活気を与え、魅力的で、多様な要素が詰まっていて、驚くべき、新たな映像と物語のフォルムを巧みに生み出すことに成功しています。

また2019年は、常に活躍を続けてきたる偉大な監督たちの製作にも密接に関わってきました。アルノー・デプレシャン(『ルーベ、嘆きの光』)、そしてアンドレ・テシネ(『見えない太陽』)、彼らの作品は現代社会に非常に明晰な眼差しを向け、それぞれに特有な演劇性やロマネスク的な嗜好を損なうことなく、ドキュメンタリー的な側面も持ち合わせています。

そして、今回の目玉であるふたりの「風変わりな(エキセントリック)映画作家を紹介しましょう。ゴダールはある時、フランス映画のシステムの中心からずれたところいる自分自身の状況について触れながら、「歴史の新たなページをひらくのは外側にいる者たちだ」と述べました。ゴダールはあえて一匹狼で横道を歩みながらも、時にはより大衆的な映画のコードと戯れ、スター俳優たちの「狂気じみたタッチ(タッチ・オブ・マッドネス)」とともに彼らを共犯者として撮りながら、自分の作品群を確立してきました。時代は異なりながらも、そうした路線を引き継いでいるのがジャン=ピエール・モッキーとセルジュ・ボゾンのふたりでしょう。
今回、白紙委任状を受けて、2019年8月8日に他界したジャン=ピエール・モッキーの追悼特集を提案したいと思いました。若い時分に俳優としてキャリアをスタートしたモッキーは、1959年に長編処女作となる『今晩おひま?』を監督して以来、フランス映画の中でもっとも熱狂させる映画作家となりました。ヌーヴェルヴァーグの同時代人でありながら、モッキーは30年代の詩的レアリズムの伝統を引き継いでいます。モッキーの映画には、ユーモアとファンタジーがあるとともにメランコリー、暴力、そして悲劇も存在しています。そのフィルモグラフィーの黄金時代には、B級犯罪映画的であると共に、フランス映画の中でも優れた政治的映画を生み出しています。その一本が1970年に撮られた『ソロ』です。

非常に独創的な作品を作り続けている1972年生まれのセルジュ・ボゾンは、モッキーの後継者とよべる存在でしょう。ひそかに展開される不条理とも言えるユーモア、陰謀や謎への嗜好、無味乾燥にも思える作風、速度のある語り、そしてとりわけ「アート系」映画としてごたごたと媚びることへの拒否、セルジュ・ボゾンの映画の魅力は、(映画史と)断絶しながらもその伝統を受け継ぎ、新たなものを創造しながら、過去の作品の引用もするという、相反する運動の間を自由に往来していることでしょう。
批評家でもある映画作家セルジュ・ボゾンは、フランス映画史への反旗の記憶を携え、無難な道を辿ることをせず進んできました。「フランス」、それはボゾンの映画の重要なテーマです。その歴史(まさにそれがタイトルにまでなっている『フランス』)、フランス共和国の制度や組織(『ティップ・トップ』の警察や『マダム・ハイド』の学校)、それらが頑強なまでに反自然主義的に、時に不協和音を奏でながらもミュージカル的に描かれてきました。ダンディーな映画作家セルジュ・ボゾンは演出への変わることのない信念に溢れ、勇敢に、映画の炎を燃やし続けています。