映画批評月間 フランス映画の現在2025(パトリシア・マズィ監督特集)

映画批評月間 フランス映画の現在2025(リュック・ムレ特集)

映画批評月間 フランス映画の現在2025(カンヌ映画祭が選んだ傑作!)

日本で上映される機会のないフランスの最新作、あるいは隠れた名作を紹介する特集「映画批評月間~フランス映画の現在」。
2025年は、パトリシア・マズィ監督の初長編作『走り来る男』と最新作『ボルドーに囚われた女』、カンヌ国際映画祭をはじめとする映画祭や批評家たちから高く評価された日本未公開の3作品、また「知られざるヌーヴェル・ヴァーグの作家」リュック・ムレの作品を上映します。

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巡回予定

日程 会場 ホームページ
2025年6月6日(金)~7月19日(土) 東京日仏学院(東京) 会場サイト
2025年10月2日(木)〜10月10日(金) シネ・ヌーヴォ(大阪) 会場サイト
2025年10月10日(金)~ 出町座(京都) 会場サイト
2025年10月18日(土)~10月31日(金) 横浜シネマリン(神奈川) 会場サイト
調整中 ナゴヤキネマ・ノイ(愛知) 会場サイト

巡回作品

カンヌ映画祭が選んだ傑作!

  • パシフィクション 監督:アルベール・セラ(2022年/165分)
  • ゴールドマン裁判 監督:セドリック・カーン(2013年/116分)
  • 歓喜 監督:イリス・カルテンバック(2023年/97分)

パトリシア・マズィ監督特集

  • 走り来る男 (1988年/87分)
  • ボルドーに囚われた女 (2024年/108分)

知られざるヌーヴェル・ヴァーグ 
リュック・ムレ特集

  • プログラム1ブリジットとブリジット (1966年/75分)
  • プログラム1黒い大地 (1961年/19分)
  • プログラム2ビリー・ザ・キッドの冒険 (1971年/78分)
  • プログラム2ウニの陰謀 (1990年/17分)
  • プログラム3カップルの解剖学 (1976年/82分)
  • プログラム3開栓の試み (1988年/15分)
  • プログラム4メドールの帝国 (1986年/13分)
  • プログラム4映画館の座席 (1989年/57分)
  • プログラム4ロングスタッフ氏の亡霊 (1996年/20分)

カンヌ映画祭が選んだ傑作!

パシフィクション

Pacifiction d’Albert Serra
スペイン=フランス=ドイツ=ポルトガル/2022年/165分/カラー
監督:アルベール・セラ
出演:ブノワ・マジメル、パホア・マハガファナウ、マルク・スジーニ

第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品/「カイエ・デュ・シネマ」2022年ベストテン第1位
南太平洋のフランス領ポリネシアにある「デ・ローラー共和国」。高等弁務官は、完璧なマナーを身に着け、公式の場でも裏社会でも、地元住民の動向を怠りなく注視し、抜かりなく身を処してきた。太平洋上で潜水艦が目撃され、フランスの核実験再開の噂が流れる中、海軍総督らが島に上陸、不穏な気配が島全体を覆い始める。

『パシフィクション』は、茫然自失させられる映画であり、茫漠とした夢の海を漂う大きな客船であり、溢れんばかりのフィクションのマグマであり、クリス・マルケルが「異/故国(Le Dépays)」と呼んだであろう現実と空想の映画の領域、未知の領域に挑んだ作品である
─マチュー・マシュレ(「ル・モンド」)

ゴールドマン裁判

Le Procès Goldman de Cédric Kahn
フランス/2023年/116分/カラー
監督:セドリック・カーン
出演:アリエ・ワルトアリテ、アルチュール・アラリ、ステファン・グラン・ティリー

第76回カンヌ国際映画祭監督週間オープニング作品
1970年代にフランス中を騒がせた「ピエール・ゴールドマン事件」の法廷を再現した裁判映画。複数の強盗罪で起訴されたゴールドマンは、自身の罪を認めながら、薬局で起きた殺人事件だけは否認する。警察の杜撰な捜査や曖昧な証言、ユダヤ人差別など数々の問題が浮上してくる。法廷でのやり取りがドキュメンタリーのようにカメラに収められていく。

これこそが裁判映画の大きな強みであり、カーンはこれを見事に利用している。つまり1976年のものであれ、今日のものであれ、個人の深みと矛盾を掘り起こし、それを組織の哀れな健全さと対話させるのである
─リュドヴィック・ベオ(「レザンロキュプティーブル」)

歓喜

Le Ravissement d’Iris Kaltenbäck
フランス/2023年/97分/カラー
監督:イリス・カルテンバック
出演:アフシア・エルジ、アレクシ・マナンティ、ニナ・ミュリス

第76回カンヌ国際映画祭批評家週間出品
仕事熱心な助産師のリディアは恋愛で破局を迎えていた。同じ頃、親友のサロメが妊娠、共に出産までのときを過ごす。難産を乗り越えて新生児を取り上げ、名付け親となり、育児にも積極的に協力する。そんなある日、かつて一夜を過ごしたミロスと再会、孤独なリディアの小さな嘘はやがて人生を賭けた大きな事件へ広がっていく。

『歓喜』の魅力をまずもって伝えるには、主演女優の顔以外ないだろう。そう、これまでと同様、アフシア・エルジがスクリーンに登場するたびに、私たちは彼女の寡黙な微笑み、瞳の動かし方、私たちの知らない過去で重くなった瞼をじっと見つめてしまうのだ
─サンドラ・オナナ(「リベラシオン」)

パトリシア・マズィ監督特集 
Focus Patricia MAZUY

パトリシア・マズィ監督パトリシア・マズィ監督
パトリシア・マズィ監督 Patricia Mazuy

パトリシア・マズィは、フランス映画の中でも、ユニークで力強いスタイルを確立している。アメリカ滞在中に出会ったアニエス・ヴァルダの庇護のもと、最初の短編をつくり、ヴァルダの最高傑作と評される『冬の旅』(1985)で編集を担当する。初長編監督作『走り来る男』以降、マズィは、激しい感情、あるいは断固たる決意をひめたヒロインを主人公としている。フォードとカーペンターというアメリカ映画の偉大なるふたりのジョンをこよなく敬愛し、広い空間と独特なロケーションを好み、階級闘争や、馬や牛といった動物への情熱、自然との関係を描きながら、彼女の映画は人間の紆余曲折する運命に光を当て続けている。最新作『ボルドーに囚われた女』ではイザベル・ユペールとアフシア・エルジ、ふたりの偉大な女優が演じる世代、階層の異なる女性間の友情、テンション、サスペンスが見事に描かれている。

走り来る男

Peaux de vaches
フランス/1988年/87分/カラー
監督:パトリシア・マズィ
出演:ジャン=フランソワ・ステヴナン、サンドリーヌ・ボネール、ジャック・スピエセル

1989年カンヌ国際映画祭ある視点部門出品作品
北フランスのある田舎町の農場。ジェラールは酩酊して火事を起こし、浮浪者が命を落としてしまう。10年後、美しいアニーと結婚し、娘もできて、立派に農場を経営するジェラールのもとに、出所した兄が戻ってくる。彼は復讐のために戻ってきたのか…。撮影はヌーヴェル・ヴァーグを支えた名匠ラウル・クタール。

『防寒帽』を見てからステヴナンのファンになり、彼のための映画を撮りたいと思っていた。帰還する男を通して、攻撃的、暴力的な側面もある現代の田舎を浮かび上がらせ、家族の中に潜むものを触発したかった。『冬の旅』で発見したサンドリーヌ・ボネール、そして弟役にジャック・スピエセルを見出し、映画は始動し始めた。
─パトリシア・マズィ

ボルドーに囚われた女

La Prisonnière de Bordeaux
フランス/2024年/108分/カラー
監督:パトリシア・マズィ
出演:イザベル・ユペール、アフシア・エルジ、マーニュ・ハヴァード・ブレック

カンヌ国際映画祭監督週間出品作品
ボルドーのある屋敷に一人で暮らすアルマと、郊外に住む若い母親ミナ、二人の夫は同じ刑務所に留置されている。面会に訪れた刑務所で二人は出会い、波乱に満ちた、不可能な友情を育みはじめる。

この企画の逆説こそ強みになると思いました。人間関係について語りかけ、私たちを引き込むロマネスクな魅力があると。犠牲者についての映画ではなく、力強いヒロインの女性たちの映画にしたいと思いました。(…)イザベル・ユペールとアフジア・エルジのコントラストは大切でした。アフシアにはイザベルの正反対に映ってほしく、対照的であることを強調するために、彼女にはより肉感的であることを求めました。
─パトリシア・マズィ

知られざるヌーヴェル・ヴァーグ
リュック・ムレ特集 
Rétrospective Luc MOULLET

リュック・ムレ
リュック・ムレ Luc Moullet

1937年パリ生れ。18歳で「カイエ・デュ・シネマ」に映画批評を寄稿し始め、フラーやウルマーらのB級映画を熱狂的に擁護。名著『俳優主義』や、ブニュエル、フリッツ・ラング、キング・ヴィダーについてのモノグラフを発表。1960年からは映画監督、1966年からは俳優、プロデューサー(自身の作品だけでなく、ユスターシュやデュラスの作品も)として活動。1965年に『ブリジットとブリジット』で長編デビュー。以後『密輸業者たち』『ビリー・ザ・キッドの冒険』他、傑作が続くが、1980年代に入ってからは短編製作に力を注ぎ、長編は『労働喜劇』(1988、ジャン・ヴィゴ賞)と「パルパイヨン」(1992)のみだったが、2000年代に三本の長編を次々に完成。2009年ポンピドゥーセンター、2021年にはシネマテーク・フランセーズ、2025年には回顧上映が開催されている。

リュック・ムレは、ブニュエルとタチの両者を継承するおそらく唯一の存在だ。
─ジャン=マリー・ストローブ(映画作家)

ヌーヴェル・ヴァーグ唯一のバーレスク映画作家であり、フランスをはじめ世界的にカルト的な人気を誇るリュック・ムレ。コメディ、冒険活劇、西部劇、日記、ロードムービー、犯罪映画、そしてカップル、地理、文学作品を題材にした作品など、あらゆるフォーマット、あらゆるジャンルで38本の映画を生んでいる。

プログラム1ブリジットとブリジット

Brigitte et Brigitte
フランス/1966年/75分/モノクロ
出演:フランソワーズ・ヴァテル、コレット・デコンブ

ピレネー出身の女の子とアルプス出身の女の子が上京したパリで偶然出会う。同じ名前を持つふたりは意気投合し、一緒に大学生活を満喫しようとするのだが…。ムレは首都に到着した瞬間から、自分の生い立ちを忘れ、見知らぬ世界で受け入れられるために規範に従わなければならない若者たちを観察する。フラー、ロメール、シャブロルらが友情出演。ゴダールに「真に革命的な映画」と讃えられ、イエール映画祭で審査員特別賞を受賞した。

プログラム1黒い大地

Terres noirs
フランス/1961/19 分/カラー

道路がなく、ほとんど消滅しようとしているようなふたつの村、ピレネー山脈のマンテとアルプスのマリオーを探訪する。題材の深刻さと短編映画の遊び心との間に楽しいコントラストを生み出している。

プログラム2ビリー・ザ・キッドの冒険

Une Aventure de Billy le Kid (A Girl Is a Gun)
フランス/1971年/78分/カラー
出演:ジャン=ピエール・レオー、ラシェル・ケステルベール

ひとりでウェルズ・ファーゴの駅馬車を襲ったビリーは戦利品を運ぶのに苦労する。そんな時、ビリーはアンと出会う‥。ホークスを進んで参照しながら、砂漠、断崖、山道を舞台に、少人数のクルーとわずか6日で唯一無二のシュールな西部劇を撮り上げた。主人公を演じるJ=P・レオーは、この多義的な側面を持つキャラクターを演じることにより、それまでの役やイメージから離れ、俳優としての新たな可能性を示している。編集はジャン・ユスターシュ。

プログラム2ウニの陰謀

La Cabale des oursins
フランス/1990年/17分/カラー

北フランスの石炭鉱山跡に残る“ボタ山”が、コロラド州のグランドキャニオンやエジプトのピラミッドと同じように、観光名所とみなされたらどうだろう。地理をこよなく愛するムレがフランスを旅する。

プログラム3カップルの解剖学

Anatomie d'un rapport
フランス/1976年/82分/モノクロ
出演:リュック・ムレ、クリスティーヌ・エベル

映画監督とそのパートナーが、フェミニズム思想に影響され、カップルとしての関係を分析する。ムレとパートナーのアントニエッタ・ピゾルノの共同監督作品。ドキュメンタリーとフィクションの中間に位置する本作でムレは自分自身を演じるが、ピゾルノは自分の役を「ビリー・ザ・キッドの冒険」のヒロイン、ラシェル・ケステルベール(変名でクレジット)に譲っている。カップルの親密さ、無秩序、異なるニーズを共存させることの難しさについて率直に語るとともに、軽視されがちだった女性の快楽について繊細な探求をしている。

プログラム3開栓の試み

Essai d’ouverture
フランス/1988年/15分

キャップがどうしても開かないとき、どのようにコカ・コーラのボトルを開けるか。

プログラム4メドールの帝国

L’Empire de Médor
フランス/1986年/13分/カラー

犬、その飼い主、擬人化:都会における“人間の親友”の居場所についての辛辣な考察。

プログラム4映画館の座席

Les Sièges de l’Alcazar
フランス/1989年/57分/カラー
出演:オリヴィエ・マルティニ、エリザベト・モロー、サビーヌ・オードパン

1955年、パリ。『カイエ・デュ・シネマ』誌の批評家ギィは、地元の映画館にヴィットリオ・コッタファヴィの映画を観に行く。そこで敵対する雑誌『ポジティフ』の批評家ジャンヌと会い、恋に落ちるのだが…。シネフィルの日常が痛快に描き出される。

プログラム4ロングスタッフ氏の亡霊

Le Fantôme de Longstaf
フランス/1996年/20分/カラー
出演:イリアナ・ロリック、エレーヌ・ラピオヴェル、ジェフリー・キャリー
原作:ヘンリー・ジェイムズ短編集『ロングスタッフの結婚』

1880年、ノルマンディーの浜辺で、喘息で瀕死の裕福なイギリス人が、若く美しいアメリカ人女性と出会い、恋に落ちる。彼女は彼を拒絶するが、2年後、彼は再び現れる…。綿密なフレーミングと洗練された演技でヘンリー・ジェイムズの世界を見事に描き出す。

巡回 予定