映画/批評月間 フランス映画の現在vol.03 マルコス・ウザル(カイエ・デュ・シネマ)によるセレクション

アンスティチュ・フランセが、フランスの映画媒体、批評家、専門家、プログラマーと協力し、最新の、あるいは知られざるフランス映画を選りすぐり紹介する特集「映画批評月間」。

Vol.3は、ゴダール、トリュフォーらヌーヴェルヴァーグの映画監督を輩出したことでも有名なフランスの映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ」の編集長マルコス・ウザルと共にセレクションが行われました。
コミュニティシネマセンターでは、アンスティチュ・フランセ東京で上映された作品の中から厳選した作品を全国に巡回します。

マルコス・ウザルによる2019~2020のフランス映画ベストセレクション、コメディというジャンルの中で独創的な作品を生み出して注目されている新世代の映画作家ソフィー・ルトゥルヌールとエマニュエル・ムレ、また、ヌーヴェルヴァーグの監督たちの助監督・俳優を務め、2021年惜しくも亡くなったジャン=フランソワ・ステヴナンの小特集に加え、「カイエ・デュ・シネマ」が2021年に70周年を迎えたのを記念して、ヌーヴェルヴァーグの監督のひとりであり、同誌の編集長も務めたジャック・リヴェットの長編第一作『パリはわれらのもの』、そして、彼を敬愛し、同誌の編集長を引き継いだ偉大な映画批評家セルジュ・ダネー、ふたりの対話が収められた貴重なドキュメンタリー、全15作品を巡回します。

マルコス・ウザル
Marcos Uzal

1973年生まれ。セルジュ・ダネーらが創刊した映画季刊誌「トラフィック」や「Vertigo」にて映画批評を書き始める。2017年より日刊紙「リベラシオン」にて映画批評を執筆。2020年5月に「カイエ・デュ・シネマ」の新編集長に任命され、創刊から70周年を迎える老舗の映画雑誌に新たな息吹を与えるべく、意欲的な企画や特集を提案し続けている。
主な著書:『ジャック・ターナー 私はゾンビと歩いた』(2006年)、『イエジー・スコリモフスキ、特別なるシーニュ』(共著、2013年)、『ギィ・ジル 時間の流れと映画作家』(共著、2014年)など、すべてイメロー・ナウ出版社

  • 巡回主催一般社団法人コミュニティシネマセンター
  • 企画協力アンスティチュ・フランセ日本
  • 助成アンスティチュ・フランセパリ本部
  • 特別協力カイエ・デュ・シネマ、笹川日仏財団
  • フィルム提供及び協力Bart.lab、ベンディタ・フィルム・セールズ、セテラ・インターナショナル、エチェ・フィルム、国立映画アーカイブ、ラ・パクト、東京国際映画祭、ラ・トラヴェルス、ヴュッター庭園
  • お問合せコミュニティシネマセンター 050-3535-1573 / film@jc3.jp

巡回予定

日程 会場 ホームページ チラシ
2021年10月24日~11月13日 広島市映像文化ライブラリー 会場サイト ダウンロード
2021年11月20日~12月10日 横浜シネマジャック&ベティ 会場サイト ダウンロード
2021年12月18日~12月24日 名古屋シネマテーク 会場サイト ダウンロード

巡回作品

マルコス・ウザル ベスト・セレクション2019-2020

  • ルーベ、嘆きの光 監督:アルノー・デプレシャン(2019年/120分)
  • バーニング・ゴースト 監督:ステファン・バチュ(2019年/106分)
  • 涙の塩 監督:フィリップ・ガレル(2020年/100分)
  • 思春期 彼女たちの選択 監督:セバスチャン・リフシッツ(2020年/136分/ドキュメンタリー)

ソフィー・ルトゥルヌール特集

  • 思い出の船乗り (2003年/35分)
  • セックス・アンド・ザ・フェスティヴァル (2013年/75分)
  • 奥様は妊娠中 (2020年/101分)

エマニュエル・ムレ特集

  • カプリス (2015年/100分)
  • 言葉と行動(ラヴ・アフェアズ) (2020年/122分)

ジャン=フランソワ・ステヴナン特集

  • 監督作品防寒帽 (1978年/110分)
  • 監督作品男子ダブルス (1986年/90分)
  • 監督作品ミシュカ (2002年/116分) ※35ミリ、国立映画アーカイブ所蔵
  • 出演作品走り来る男 監督:パトリシア・マズィ(1988年/87分)

カイエ・デュ・シネマ創刊70周年記念特集

  • 現代の映画作家シリーズ:ジャック・リヴェット 夜警
    監督:クレール・ドゥニ(1990年/127分)
  • パリはわれらのもの 監督:ジャック・リヴェット(1958年/142分)

マルコス・ウザル ベスト・セレクション2019-2020

© 2019 Why Not Productions Arte France Cinéma

ルーベ、嘆きの光

Roubaix, une lumière
2019年/120分/カラー/デジタル/フランス語
監督:アルノー・デプレシャン
出演:ロシュディ・ゼム、レア・セドゥ、サラ・ファレスティエ、アントワーヌ・レナルツ

2019年カンヌ国際映画祭コンペティション出品
フランス北部の街ルーベ。クリスマスの夜、放火事件を捜査していた警察署長のダウードと新米刑事のルイは老女の遺体を発見する。捜査を進め、同じ建物にカップルとして暮らすクロードとマリーを署に連行する‥。名匠デプレシャンが、生まれ故郷ルーベの警察署の様子を記録したドキュメンタリーから着想を得て、現地の住民や警察官たちとプロの俳優を共演させて撮り上げた初のフィルム・ノワール。
ダウード警察署長を演じたロシュディ・ゼムはセザール賞最優秀男優賞受賞。

デプレシャンがこの映画で行っているのは、ダウール署長と同様、曖昧なものに光を注ぎ、縺れたものを解きほぐそうとすること、それだけであり、道徳や美を判別することではない。まさに古典的映画が探求したように。(…)重要なのは贖罪ではなく、もっとシンプルなこと。つまり、自らの中の漠然とした、薄暗い部分を照らし出すことによって、心の平静を得ること。その結末がどんなに悲劇的なものになろうとも。
マルコス・ウザル

バーニング・ゴースト

Vif-argent
2019年/106分/カラー/デジタル/フランス語
監督:ステファン・バチュ
出演:ティモテ・ロバール、ジュディット・シュムラ、ジョロフ・エムベング

2019 年カンヌ映画祭ACID 上映
幽霊のジュストは自分のことが見える人間を探して、パリの街をさまよい歩く。死後の世界へ旅立つ人々のために、彼らの最後の思い出を集めていると、ある日、アガトに巡り合う。幽霊と人間の恋の行方は…。ジャン・コクトー作品を思わせる幻想的な映像が味わい深いゴーストストーリー。2019年ジャン・ヴィゴ賞受賞。

感情は直ちに沸き起こるわけではなく、物語の奥深くからゆっくりと生まれてきて、熱狂的ロマンチスムに包まれたフィナーレを機にすべて押し流されていく、若々しいまでの熱気を帯びて。
マチュー・マシュレ

涙の塩

Le Sel des larmes
2020年/100分/モノクロ/デジタル/フランス語
監督:フィリップ・ガレル
出演:ロガン・アンチュオフェルモ、ウラヤ・アマムラ、アンドレ・ウィルム

地方に住む若者リュックは、美術工芸大学の試験を受けるためパリを訪れ、偶然出会ったジャミラと恋に落ちる。故郷に戻ったリュックはかつての恋人ジュヌヴィエーヴに再会、ふたりはよりを戻すが、ジャミラもリュックとの再会に胸を焦がしていた。

あらゆる点から考えて、より限られた製作体制(少数の登場人物、短めの作品を短い撮影期間で撮る)へ回帰し、それが方法として定着してから、つまり『ジェラシー』(2010)以来、フィリップ・ガレルは無駄を削り、省略し、最も重要なもの、核心へと一気に突き進んでいく。そのことが作品を非時間的なものとし、恋人たちを親密に結びつけることになる。『涙の塩』は、それぞれの挿話が、写真機のシャッターの動きを想起させるようなデクパージュや編集によって、ほとんどまばたきのように開き、閉じていく。目が眩むほど魅惑的である。
シャーロット・ガルソン

思春期 彼女たちの選択

Adolescentes
2019年/135 分/カラー/デジタル/フランス語
監督:セバスチャン・リフシッツ
出演:アナイス、エマ

育った環境も、性格も似ていないアナイスとエマ。13 歳から18 歳、思春期を生きる少女2 人の5年間を追ったドキュメンタリー。まるでフィクションのように、彼女たちが「登場人物」として立ち上がっていく様に、一瞬たりとも目が離せなくなる。音楽はクレール・ドゥニ作品でもお馴染みのティンダースティックス。2020年ルイ・デュリュック賞受賞。

エマとアナイスの間に少しずつ差異が生まれ、互いの距離が広がっていく。この差異、開いていく距離こそ、おそらく本作の最も美しく、そして最も神秘的な主題を構成しているだろう。それは社会構造だけではなく、若い女性たちが形作っていく彼女たちの人格そのものに属していて、可視化されず、形にもならない磁場が広がっていく。
マチュー・マシュレ

ソフィー・ルトゥルヌール特集:コメディの産科学 Sophie Letourneur, obstétrique du rire

ヴァカンスや映画祭、旅のエピソードや友人たちの体験など、生の素材から着想を得て、丹念に脚本や台詞を練り、実際の場所やシチュエーションを活用しながら実験的な撮影を行う。ジャック・ロジエの作品を想起させる手作り感覚の独創的な映画作りで、迷いながらも自由に、前を向いて生きる人々を描いたコメディを発表し続ける若手女性監督ソフィー・ルトゥルヌール。最新作『奥様は妊娠中』を含む3作品。

思い出の船乗り

Le Marin masqué
2011年/35分/モノクロ/デジタル/フランス語
出演:ソフィー・ルトゥルヌール、レティシア・ゴフィ、ジョアン・リベロー

レティシアとソフィーは、レティシアの生まれ故郷ブルターニュで週末を過ごすためにカンペールに旅行する。クレープ、海辺の散歩、「コテージ」でのナイトライフ、思い出の船乗りとの再会、レティシアの甘く切ない若き日の恋物語。

セックス・アンド・ザ・フェスティヴァル

Les Coquillettes
2013年/75分/カラー/デジタル/フランス語
出演:カミーユ・ジュノー、キャロル・ル・パージュ、ソフィー・ルトゥルヌール、ジュリアン・ジェステール、ルイ・ガレル

恋に悩む不器用な愛すべき三人娘がロカルノ国際映画祭に向かう。自分の作品を発表しに来たはずが、ミーハーなソフィーは有名俳優ルイ・ガレルに夢中、ロマンティックなカミーユは不可能な恋物語を夢見、実用的なキャロルはただ“男と寝たい”だけ…。フラッシュバックとともに夏の体験を回想し合う3人娘たちのお喋りによって、映像と言葉、記憶と現在が混じり合っていく。

奥様は妊娠中

Énorme
2020年/101分/カラー/デジタル/フランス語 R12 +
出演:マリナ・フォイス、ジョナタン・コーエン、ジャクリーン・カコー

クレールは世界的な天才ピアニスト。夫でマネージャーのフレデリックと共に日々世界中を飛び回っている。子どもは持たない、それが夫婦の共通認識だったが、40歳を迎えたフレデリックは、父になりたいとの強い思いに駆られ、クレールの避妊薬に細工をしてしまう。

ソフィー・ルトゥルヌールは、体験の場、俳優たちの育成の場として手探りで風変わりなコメディを作り、フランス映画の境界を揺るがしている作家のひとりである。
マチュー・マシュレ

エマニュエル・ムレ特集:愛する術 Emmanuel Mouret, l’art d’aimer

恋愛の情熱、欲望、感情のほとばしり、あるいはその脆さ…、言葉にすることから生まれる行動、あるいは言葉と行動の間のずれを優雅に、コミカルに、そしてメランコリックに描くエマニュエル・ムレは、サッシャ・ギトリやエリック・ロメール、あるいはウッディ・アレンを思わせるラブコメディの名手として一作ごとにその評価が高まっている。

カプリス

Caprice
2015年/100分/カラー/デジタル/フランス語
出演:アナイス・ドゥムースティエ、エマニュエル・ムレ、ヴィルジニー・エフィラ

教師のクレマンは、ひょんなことから、大ファンだった有名女優アリシアと付き合うことに。順調に見えたアリシアとの付き合いだが、カプリスという若い女性が登場し、複雑な展開に。『アリスと市長』などで高く評価されている若手仏女優ドゥムースティエと、ポール・ヴァンホーヴェンとの新作『ベネデッタ』が待ち望まれる最も旬の女優エフィラ、二人が演じる魅力的な女性の間で揺れ動く内気な男性をムレ自身が演じるチャーミングなラブコメディ。

言葉と行動(ラヴ・アフェアズ)

Les Choses qu’on dit, les choses qu’on fait
2020年/122分/カラー/デジタル/フランス語
出演:カメリア・ジョルダナ、ニールス・シュネデール、エミリー・ドゥケンヌ、ヴァンサン・マケーニュ

ふたりの男女が互いの身に起きている愛の物語を語り合う。欲望と愛情の違いとは? 既婚の相手に対し一歩踏み出せるか? 成就しなかった恋に再挑戦できるか? 多様な想いが交差する、軽やかで深淵なる愛のタペストリー。東京国際映画祭では英語タイトル『ラブ・アフェアズ』で上映。

ジャン=フランソワ・ステヴナン特集:逃走の悦楽 Jean-François Stévenin, délices de fuites

ジャン=フランソワ・ステヴナン
ジャン=フランソワ・ステヴナン

ゴダール、トリュフォー、リヴェットらヌーヴェルヴァーグの映画作家たちのもとで助監督を務め、俳優としても数多くの作品に出演してきたジャン=フランソワ・ステヴナンは、3本と寡作ながら、その監督作品が熱狂的な人気を得ており、2018年にはデジタルリマスター版でリバイバルされ、さらに評価、人気が高まっている。2021年7月27日没。

「これほどまでに特異な魅力を持つステヴナンの映画は何と並べることができるだろう。フランスでは彼がアシスタントについていたジャック・ロジエ、アメリカでは彼が師匠とみなすジョン・カサヴェテス。この二人の師匠にならい、ステヴナンの映画作りは徹底的に冒険的だ。社会や映画の規則を放棄し、一見カオス的に見えながら、所作、編集は非常に的確である。生まれ故郷のジュラ、山やアルコールを愛し、犬と一緒に歌う人々たちの驚くべき集まり、ステヴナンしか見せることができないフランス、世界が広がっていく」
マルコス・ウザル

監督作品防寒帽

Passe montagne
1978年/110分/カラー/デジタル
出演:ジャン=フランソワ・ステヴナン、ジャック・ヴィルレ、イヴ・ル・モワニュ

田舎に住む物静かな男セルジュは、パリからやって来たジョルジュと出逢う。車が故障し、友人たちに置いていかれたジョルジュは、修理工場で働くセルジュに助けられ、共にジュラの山々を旅することに。やがてふたりの間には不思議な友情が芽生える。二人の男がフランスの山岳地帯を西部劇さながらに旅するロードー・ムービー。

監督作品男子ダブルス

Double Messieurs
1986年/90分/カラー/デジタル/フランス語
出演:ジャン=フランソワ・ステヴナン、イヴ・アフォンソ、キャロル・ブーケ

堅実な生活を送っていたフランソワは、映画のスタントマンをしている昔の友だち、レオに再会する。いつまでたっても少年のようなレオは、もうひとりの仲間に会いにいこうとフランソワを誘う。グルノーブルで彼らを迎えたのは、旧友の美しい妻、エレーヌだった。ふたりはエレーヌを「誘拐」する羽目になり、3人の波瀾に満ちた旅が始まる。

監督作品ミシュカ

Mishka
2002年/116分/カラー/35mm/フランス語 *国立映画アーカイブ所蔵作品
出演:ジャン=ポール・ルシヨン、ジャン=フランソワ・ステヴナン、サロメ・ステヴナン、ジョニー・アリディ

夏のヴァカンスが始まる頃、高速道路のサービスエリアに置き去りにされた老人と介護施設の看護人ジェジェーヌは、ジェジェーヌの音信不通の娘を訪ねる旅に出る。そこに、家出して父を探す少女ジャンヌと幼い弟レオ、ジプシー・ロックの女性ミュージシャン、ジョリ=クールが加わり、擬似家族の絆で結ばれた5人は海に向かって旅を続ける。

出演作品走り来る男

Peaux de vaches
1988年/87分/カラー/デジタル/フランス語
監督:パトリシア・マズィ
出演:ジャン=フランソワ・ステヴナン、サンドリーヌ・ボネール、ジャック・スピエセル

北フランスのある田舎町。ジェラールは兄とともに酩酊して農場に火事を起こしてしまい、たまたまそこにいた浮浪者が命を落とす。10年後、美しい妻とかわいい娘とともに新しい農場で暮らすジェラールのもとに刑務所から出所した兄が戻ってくる。撮影はヌーヴェルヴァーグを支えた名匠ラウル・クタール。1989年カンヌ国際映画祭ある視点部門出品作品。

『防寒帽』を見てステヴナンのファンになり、彼のための映画を撮りたいと思っていた。帰還する男を通して、攻撃的、暴力的な側面もある現代の田舎を浮かび上がらせ、家族の中に潜むものを触発したかった。(アニエス・ヴァルダの)『冬の旅』でサンドリーヌ・ボネールを発見し、そして弟役にジャック・スピエセルを見出し、映画は始動し始めた。
パトリシア・マズィ

『カイエ・デュ・シネマ』創刊70周年記念特集

1951年にアンドレ・バザンらによって創刊された映画雑誌『カイエ・デュ・シネマ』は、ゴダール、トリュフォー、ロメール、リヴェットらヌーヴェルヴァーグの監督たちを輩出、現在に至るまで、重要な映画批評雑誌として世界中で読み続けられている。1963~1965年まで編集長を務めたジャック・リヴェットの長編第1作『パリはわれらのもの』と、同誌の編集長を70年代に務め、その後、よりジャーナリスティックな、旅日誌の形式で映画について書き続け、その死後も圧倒的な影響力を誇る映画批評家セルジュ・ダネーが、リヴェットにインタビューする貴重なドキュメンタリー(監督:クレール・ドゥニ)を巡回。

現代の映画作家シリーズ:ジャック・リヴェット 夜警

Jacques Rivette, le veilleur (Cinéma, de notre temps)
1990年/127分/カラー&モノクロ/ビデオ/フランス語
監督:クレール・ドゥニ、セルジュ・ダネー
出演:ジャック・リヴェット、セルジュ・ダネー、ビュル・オジエ、ジャン=フランソワ・ステヴナン

リヴェットが映画批評家セルジュ・ダネーと共に、かつて撮影したパリのいくつかの場所を訪れる。顔を撮ること、身体を撮ることとは、セクシュアリティーとは、ヌーヴェルヴァーグとは、孤独であるとは、そして映画とは、昼から夜へ、移動から静止へ、ふたりから豊かな言葉が流れていく。

パリはわれらのもの

Paris nous appartient
1961年/142分/モノクロ/デジタル/フランス語
監督:ジャック・リヴェット
出演:ベティ・シュナイダー、ジャニ・エスポジート、フランソワーズ・プレヴォ、ジャン=クロード・ブリアリ

ジャック・リヴェットが盟友ジャン・グリュオーと共に、仲間に先駆け1958年に撮影をスタートさせたヌーヴェルヴァーグ作品。しかし製作は困難を極め完成まで2年を要した。トリュフォーやシャブロルが資金を提供し、ゴダールやジャック・ドゥミも出演している。パリに来た女学生アンヌ・グーピルは、シェークスピアを上演しようとする野心的だが資金に乏しい演劇グループに参加するが、やがて彼女は周囲に見え隠れする謎の組織による陰謀に巻き込まれていく。

独特なる声を発する映画たち

マルコス・ウザル

『カイエ・デュ・シネマ』2020年9月号(768号)の表紙で、私たちは、フランスでの映画館再開とそこに作品が戻ってくることを祝い、「すべて映画館で!」と謳った。行動規制を余儀なくされた一年、その半ばで、映画館の再開は残念ながら短い期間となったのだが、それは真に新しいと感じ、熱狂させる作品たちを擁護するまたとないときとなった。 同号で特集した作品は同誌の昨年の「トップテン」にも選ばれている作品であり、その内の2本はフランス映画、ソフィー・ルトゥルヌールの『奥様は妊娠中』とエマニュエル・ムレの『言葉と行動』であり、それぞれの監督の最良の作品となっている。
このふたりはフランスで何年か前から呼ばれている「中間にある映画」、つまり周辺に閉じこもることなく、より広い観客層を獲得できる作家的個性を持つ映画を代表する監督たちである。作家主義と大衆性というふたつの要求を併せ持っている「中間にある映画」は、かつてはまさにフランス映画の強みであり、その代表格としてフランソワ・トリュフォーやジャック・ドゥミ、あるいはクロード・シャブロルといった監督たちの名前を挙げられるだろう。 今日、こうした映画の傾向はとくにコメディを通して続いており、ルトゥルヌールとムレの道程はまさにそのことを強く示している。このふたりの最新作でとくに興味深いのは、それぞれがフランス映画で探求されてきたジャンルやキャラクターから出発しながらも、それらをさらに深く推し進めているところだ。たとえばルトゥルヌールは『奥様は妊娠中』で「カップルのコメディ」というジャンルを生々しく、荒唐無稽(ルビ:バーレスク)なコメディへと転換させている。他方ムレは『言葉と行動』で、優雅で粋な恋愛劇(ルビ:マリヴォダージュ)を目が眩むような輪舞へと広げ、コメディは次第にメロドラマへと移行していく。 本特集では彼らよりベテランの、今日のフランスの作家主義の映画において最良の部分を担っているふたりの映画作家の作品も紹介する。一本目はフィリップ・ガレルの『涙の塩』だ。ガレルは60年代の初期作品から『カイエ・デュ・シネマ』にとって非常に大切な作家である。二本目は『ルーベ、嘆きの光』であり、アルノー・デプレシャンはこれまでの作風とは異なる、予期せぬジャンル、犯罪映画に挑戦している。

2019年のベスト作品としてセレクトしたステファン・バチュの『バーニング・ゴースト』、フランク・ボーヴェの『叫んでいるなどとは思わないでください』は、最近のフランス映画の中でもとりわけ独特な声を発している作品たちである。前者は詩的幻想映画の鉱脈の中に位置づけられる作品であり、長い年月を隔ててジャン・コクトーの映画と響き合っていると言えるだろう。後者はファウンド・フッテージの驚くべき作品で、親密なる日記であると同時に政治的トラクト、映画愛好者(ルビ:シネフィル)の夢でもあり、映画がいかに世界の暴力や人生の哀しみから私たちを救ってくれるかを示す抒情短詩(ルビ:オード)になっている。

そして映画批評家の仕事をまったく異なる方法で見せている二本の作品。一本目はソフィー・ルトゥルヌールの魅力溢れる作品『セックス・アンド・ザ・フェスティバル』、二本目はクレール・ドゥニの『ジャック・リヴェット、夜警』だ。前者は、ロカルノ映画祭での3人の女性たちのアヴァンチュールを通してパリの批評家たちの小さな世界を屈託なくからかってみせる(『奥様は妊娠中』でも展開しているバーレスクとドキュメンタリーの交錯を見ることができる)。後者は『カイエ・デュ・シネマ』にとって重要な存在であるジャック・リヴェットとセルジュ・ダネーのふたりによる非常に興味深い,長い対話で構成されている。最初、リヴェットは映画作家として自分の作品についてダネーに語っているのだが、しだいに批評家へと立ち戻っていく。まさにダネーが「最初の批評的しぐさ」と述べていた会話の実践によって。

『ジャック・リヴェット、夜警』でリヴェットは、彼を熱中させたひとりの若い女性監督の処女作について語り始める。パトリシア・マズィの『走り来る男』である。それは偉大な、類い希な映画作家の誕生を知らしめる行為と言えるだろう。同作は公開以来あまり紹介されることがなくなっていたが、復元されたことでようやく今年になって素晴らしいリマスター版で見られることになった。田舎の風景や俳優たちを撮影するその方法、そして現代の西部劇とも言える乾いた語り口が非常にオリジナルな作品である。もし映画史の中につながりを求めるとしたら、(マズィ自身も述べている通り)、同作の主役のひとりであるジャン=フランソワ・ステヴナンの映画を挙げることができるだろう。

ステヴナンはトリュフォー、ゴダール、リヴェットの作品、そして大衆的テレビ映画にも多く出演し、フランス映画で馴染み深い顔なのだが、過去50年のフランス映画の中でも最も素晴らしい作品を生み出し、ジョン・カサヴェテスとジャック・ロジエの間に位置づけることができる監督である。その監督作品があまり知られていないとしたら、『防寒帽』(1978)、『男子ダブルス』(1986)、『ミシュカ』(2002)の3本しか撮っていない寡作であることにその理由を見いだせるかもしれない。どれもが素晴らしく、とくに私にとっては『防寒帽』は、世界でもっとも美しい映画として大切な一本である。ステヴナンのこれら三本を日本の皆さんが発見されることをとても嬉しく思う。生きたい、映画を撮りたいという想いをほかのどの作品よりも与えてくれる稀有な作品たちだ。